【実体験】笑顔の裏でうつ病が悪化?自分でも気づかない心の危険信号とは


うつ病の形はイメージ通りではなかった

「うつ病で休職」と聞くと、どんなイメージを持ちますか?

多くの方は、ドラマのように、感情が抑えきれず涙が止まらなくなったり、ある日突然ベッドから起き上がれなくなって会社に行けなくなったり…そんな状況を想像するかもしれません。

この記事を書いている私は、過去にうつ病を経験しました。

実は、私自身も以前は、うつ病に対して上記のようなイメージを持っていました。実際、新卒で入社したばかりの頃、強いストレスに晒された時は、まさにそのイメージ通りの症状が出たこともあります。

しかし、数年前に経験したうつ病は、まったく違う様相を呈していました。 今回はその体験談をお話しさせてください。もしかしたら、今まさに「なんだかおかしい」と感じているあなたの、またはあなたの周りの大切な人の、早期発見のきっかけになるかもしれません。

感じていたのは「辛さ」ではなく「不調」

今回のうつ病の兆候が現れていた時期、もちろん「きついな」と感じる場面はありました。しかし、以前のように気分が激しく落ち込んだり、涙が止まらなくなったりするような、いわゆる「鬱々とした感情」はほとんどありませんでした。

なぜ感情的な落ち込みが少なかったのか、はっきりした理由は分かりません。ただ、5年ほど前にパニック障害を発症して以来、心療内科に通院し、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という種類のお薬(※)を服用していたことが、関係しているのかもしれません。

(※ざっくり言うと、脳内のセロトニンという神経伝達物質の濃度を高める働きがあるとされるお薬です)

その代わり、私に顕著に現れたのは、次のような症状でした。

  • 極端な不注意: 日常生活でのミスが信じられないほど増えました。一番ショックだったのは、自宅の駐車場で、車を壁にぶつけてしまったことです。普段なら絶対にありえないようなミスでした。
  • 思考力の低下: 頭がまったく働かず、言葉がスムーズに出てこなくなりました。「あれ」「それ」といった指示語ばかりが増え、具体的な単語が出てこないのです。会話もままならず、仕事にも支障が出始めていました。

「ただちに運転も出社も禁止です」医師からの突然の宣告

これらの症状を自覚しつつも、「疲れているだけかな」「最近ちょっと変だな」くらいにしか思っていませんでした。まさか、これがうつ病の症状だとは、夢にも思っていなかったのです。

転機は、定期的に通っている心療内科の診察でした。いつものように近況報告として、最近の不注意や思考力の低下について話したところ、医師の表情がみるみる険しくなりました。そして、こう告げられたのです。

「ただ今から、車の運転は絶対にしないでください。会社に行くことも禁止します。すぐに診断書を作成しますので、会社に提出して休職してください。」

あまりに突然の宣告に、私は呆然としました。

後日、医師から聞いた話によると、診察時の私の状態は、自殺や事故のリスクが非常に高く、本来であれば即入院を検討すべきレベルだったそうです。しかし、診察時間が連休前日の夜9時頃と遅かったため、入院設備のある病院への連絡・手配が困難でした。やむを得ず自宅に帰すことになったものの、医師は「何かあったら、時間帯は気にせず必ず連絡するように」と、個人の連絡先を教えてくれました。それほど、切迫した状況だったのです。

自分では気づけない「異常事態」と、笑顔の裏側

休職して数ヶ月が経ち、少しずつ心身が回復してくる中で、ようやく当時の自分がどれほど危険な状態にあったのかを客観的に理解できるようになりました。しかし、渦中にいるときは、なぜかその「異常な状態」が「当たり前」だと感じてしまっていたのです。これが、うつ病の怖いところなのだと痛感しました。

会社では、突然の休職に少し戸惑いが広がったようです。それもそのはず、休職する前日まで、私は(少なくとも表面的には)笑顔で同僚と接していたからです。「まさか、あの人が?」と思われたかもしれません。

でも、その笑顔は、心からのものではありませんでした。私はASD(自閉スペクトラム症)の特性があり、いわゆる「カモフラージュ」として、意識的に笑顔を作ることが習慣になっていました。内心では辛さを感じていても、表情や態度に出にくいのです。そのため、周りの人からはもちろん、自分自身でさえも、心のSOSに気づくのが遅れてしまいました。

うつ病は、誰にでも、気づかないうちにやってくる

私の経験からお伝えしたいのは、うつ病の症状は、必ずしも「感情的な落ち込み」として現れるわけではないということです。そして、自分でも気づかないうちに、周りにも気づかれないまま、深刻な状態に陥ってしまうことがあるということです。

特に、私のように発達に凹凸のある方は、定型発達の方とは異なる形で症状が現れたり、本来の特性なのか、病気の症状なのか、自分でも周囲でも判断がつきにくかったりすることがあります。

もしかして?と思ったら、立ち止まって自分に目を向けて

この記事を読んで、「もしかして自分も…?」「あの人の様子が最近おかしいかも…?」と感じた方がいらっしゃるかもしれません。

もし、あなたがご自身のことで「最近すごく疲れている」「なんだか集中できない」「ミスが増えた」と感じるなら、それは心からのSOSサインかもしれません。 忙しい毎日だとは思いますが、一度立ち止まって、ご自身の心と体の声に耳を傾けてみてください。

そして、もしあなたの周りに、以前と比べて明らかにミスが増えたり、ぼーっとしているように見えたり、元気がなさそうに見える人がいたら、たとえその人が笑顔でいたとしても、「最近、ちょっと心配だよ」と声をかけてあげてほしいのです。本人は、自分の不調に全く気づいていない可能性があります。

うつ病は、特別な人がなる病気ではありません。誰にでも起こりうる、心の不調です。そして、そのサインは、意外な形で現れることがあります。

どうか、あなた自身と、あなたの周りの大切な人の「いつもと違う」サインを見逃さないでください。早期に気づき、適切な対応をとることが、回復への第一歩となります。

一人で抱え込まず、辛いときは専門機関に相談することも考えてみてくださいね。


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